ヤフーオークションの情報として先日PioneerのハイエンドスピーカーEXCLUSIVE S5が出品されたので履歴情報を残します。
TADユニットは現在の基準でも極めて高性能であり価値の高い製品です。そのためEXCLUSIVEは国産スピーカーの中でも特に中古相場が上昇したブランドです。
落札情報(EXCLUSIVE S5)
最終価格:632,000円(税込:695,200 円)
出品者:ウエスト(Tunagu株式会社)(ID:tunagu5555)
終了日:2021年4月28日
入札件数:161件(履歴は以下)
コンディションが良く、価格は入札開始早々に上昇しました。これまで見た他の案件も同レベルのコンデシションは類似の入札状況であることが多い。
Pioneer EXCLUSIVE S5・コンディション
ミントコンディションと思われます。
シリアルは連番(No:00405/00406)。
目立つ傷はなし。パイオニアに限らずトールボーイ全般に多い天板の傷やハカマの割れも見られませんでした。
背面の取り付けネジ隠しのフェルトにも傷やほつれ・歪みがなく内部を触られた痕跡はありません。
ユニットには傷なし。またネットについてもほつれや傷はありません。
極めて行き届いた管理が行われてきた個体と思われます。
取り扱い説明書ならびに純正のジャンパー線が付属しています。
Pioneer EXCLUSIVE S5・中古の確認ポイント
なお中古でEXCLUSIVE S5の購入を検討する場合、確認するべきポイントは以下となります。
天板に汚れまたは日焼けムラがないこと
上述のとおりPioneerに限りませんがトールボーイ型のスピーカーは天板に傷がつくことが多い。
その形状からインテリアなどの置き台とされることが多いためです。
また傷がない場合でも物が置いてあった部分には光が当たらないため、長期間を経て日焼けのムラができている個体があります。
日焼けによる退色のムラは傷以上に修復が難しいため要注意ですが、特に画像では撮影時の光の反射で見づらくなるポイントです。
可能ならば現品を実際に確認するか、少なくともこの部分に関する確認問い合わせの必要があると思われます。
なお突板仕上げ等のリアルウッドは完全に紫外線の入らない、つまり窓の全くない部屋におかない限り光による色あせを完全に防ぐことは難しく、ユーズドについて全体的な退色など色調の変化はある程度まで許容範囲と思われます。
後面パネルのフェルト状態(ほつれ・傷・歪み)
後面パネルのフェルト(16箇所)に一度剥がされた、あるいはほつれたような跡の有無は要確認です。
きれいな状態でない場合、内部に手が加えられた個体である可能性があります。少なくとも背面パネルは確実に開けられています。
S5の内部にアクセスするには後面パネルを外す必要があります。スピーカー後面の周囲に見えるフェルトは取り付けネジを隠すためのものです。
これは一度外すと必ず傷・ほつれ・変形となって跡が残ります。
内部ネットワーク・ユニットの改造の有無
上記の背面パネルを外したものにはネットワークやユニットへ手が加えられている場合があります。具体例は以下となります。
- ネットワークは素子(コンデンサー・コイル)が変えられている。
- ユニットのフレームに防振材が貼られている。
- 内部配線が変更されている。
ユーザーが内部にアクセスしたい一番の理由はユニットの取り付けネジを増し締めすることです。
しかしEXCLUSIVE自体がTADユニットを売り物にしていたため、高級プロ用ユニットを使った経験のある自作マニアの中にはメーカー仕様を超えたいとして改造する例があります。
80年代はユニットを集めてマルチアンプのスピーカーを自作することも趣味として確立していた時代であり、比較的抵抗なく改造されたと思われます。
EXCLUSIVEの改造を好んだ人にはのちに登場するRay Audioに影響を受けたマニアが多く、特にネットワークが改造の対象になりやすい。
これはS5だけでなくmodel2401や2402でも見られる事例でEXCLUSIVEでは要注意です。
ホーン部表面にシール等を貼り付けた跡の有無
本機種によらずホーンスピーカー全般についてですが、ホーン部分(木製のラッパ)に何かを貼り付けた(そして剥がした)跡の有無については要確認ポイントとなります。
特に木製ホーンは剥がす際に塗装が損なわれるため、入念に画像を確認する必要があります。
ホーンスピーカーでは音の調整方法としてホーン自体を防振するという手法がかつて流行りました。
具体的には防振材(ブチルテープまたは薄い革)を両面テープで貼るのですが、剥がす際に除光液やシール剥がし剤、場合によってはケイグ(CAIG D5S-6)を使う人がいたため本来の塗装が損なわれます。
中には小さなアルミ片を貼り付けた人も見ましたが、同じく製品の傷ですから注意して確認してください。
シリアルNoが連番であるかどうか
S5ではあまり見かけませんが、Pioneerはホームシアター用途で購入するユーザーが多かったせいかS1000Twinなど他のトールボーイスピーカーでは全くかけ離れたシリアルNoの組み合わせのものも珍しくありません。
無論新品時とは異なるペアですので注意が必要です。左右で特性が異なるという状況も起こりえます。
EXCLUSIVE S5の音そして特徴
当時TAD(Technical Aucio Devices)ブランドのユニット群でプロを中心に高評価を確立してきたPioneerがTADクオリティの民生向けとして展開したEXCLUSIVEスピーカーの三番手となります。
同ブランドの民生向けに販売されたスピーカーはmodel2402(1983年)やmodel2401でありますが、S5はバーチカルツインタイプの追求としてむしろS1000twinやS5000の系統に近いものがあります。
主なスペック・諸元
- 発売時期:1989年
- 発売時価格:¥638,800(1台)
- 形式:2ウェイトールボーイスピーカー
- 外径寸法:W370×H1,210×D586(mm)
- 重量:85Kg(1本)
- インピーダンス:6Ω
- クロスオーバー周波数:1.2KHz
- 出力音圧レベル:93dB/W/m
- 再生周波数帯域:25Hz~22KHz
- ユニット構成
- 高域:2インチドライバー(TD2001カスタム仕様:ダイヤフラム口径φ48)×1
- 低域:25cmウーファー×2
- 高/低域共にアルニコマグネット
EXCLUSIVE S5はトールボーイタイプのTAD
トールボーイ分野は日本ではPioneerが最も成功した事例と言われていますが、その分野での最高品位の音を目指したスピーカーです。
88年発売のS-55Twin以前から既に開発が始まっており発売までには数年を要しています。
結果としてTADをそのまま搭載したものではなく、ドライバー・ウーファー、ホーン部など全てに本機専用のカスタムチューニングが施されています。
これがUsedにおいて改造品を避けたい理由です。
なお材質・構造面でのトピックは以下となります。
- 制作は全てハンドメイドによる組み立てとフィニッシュ。そのため受注から納期を要するとの公式アナウンスがなされた。
- ホーン部分はイタヤカエデ積層板をハンドメイドで削り出し。
- エンクロージャーはメインがウォールナット突板をオイルステイン仕上げ。
- エンクロージャー天板はバーズアイメープルの突板
- ユニットの振動・共振のコントロールはPioneerが「ミッドシップマウント」と呼称したエンクロージャ内部の取り付けベースに固定する方式。
- ネットワークはホーン部/各ウーファー毎に分割設置したもの。つまりネットワークパートは3ピースに別れている。接続はカシメ。
当時38cmウーファーを鳴らすためにテクニックを要したmodel2401/2402と比較して、ドライバーの質の高さと小口径ウーファーの機敏さが特徴でした。
クラシックを聴かせ、かつエネルギー感があるとして評論家の柳沢功力氏から評価され、また故菅野沖彦氏からは「アナログがよかった」音と評されています。
今回EXCLUSIVE S5の履歴を残したのは個人的に手元で鳴らしたいと思うときがあるからです。
TADウーファーの色濃さとレスポンスの良さが高次元でバランスしており、model2401や2402の手強さと比べ、そこそこ力のあるアンプで鳴るスピーカーでありましたので。
ハンドメイドの威力そのものですが製品の造り込み精度が高いことから、Usedの個体を見るたびに細部を確認してしまうモデルであります。